農業のIT導入、何がある?30種類を一覧で整理|現場で使えるはじめの一歩
「ITを入れたほうがいいのは分かっている。でも、そもそも何があるのか分からない」。農家さんと話していると、この言葉を本当によく耳にします。
ドローンや自動運転トラクターは有名ですが、農業で使えるITはそれだけではありません。スマホのアプリから防犯カメラまで、数えてみると30種類ほどあります。
この記事では、農業のIT導入を6つの分野・30種類に整理し、それぞれの「始めやすさ」の目安をつけました。全体を眺めてから、自分の現場に合う一歩を選んでください。
始めやすさの目安について
各表の「始めやすさ」は、ノウミーが費用と手間からつけた目安です。
- ★★★:スマホやパソコンがあればすぐ始められる。無料〜月額数千円程度
- ★★:機器の購入や設置が必要。数万〜数十万円程度
- ★:大きな投資になる。百万円以上が目安で、補助金や共同利用の検討が前提
製品や規模によって実際の費用は大きく変わります。あくまで入口の目安としてご覧ください。
1. 記録・経営管理(事務作業を楽にする)
いちばん始めやすく、ほかのIT導入の土台にもなる分野です。
種類 | できること | 始めやすさ |
|---|---|---|
①営農記録アプリ | 作業日誌をスマホで記録。圃場・品目ごとの作業時間が見える | ★★★ |
②農薬・肥料の使用記録 | 使用回数や希釈倍率の確認、GAPや出荷先向けの帳票づくり | ★★★ |
③圃場マップ管理 | 地図上で圃場を管理。作付けや作業の進み具合を色分けで把握 | ★★★ |
④会計・確定申告ソフト | 帳簿づけ、請求書、インボイス対応、青色申告 | ★★★ |
⑤販売・在庫・受発注管理 | 出荷量と売上の記録、取引先ごとの注文管理、伝票の自動作成 | ★★★ |
⑥勤怠・シフト管理 | 従業員やパートさんの出勤、作業の割り振り、給与計算との連携 | ★★★ |
効果の例として、広島県の技術資料では、紙の営農記録をアプリに切り替えて作業時間が9%(36aで9時間)減ったと報告されています。利用料は月1,000円です。
2. 圃場の見える化(行かなくても分かる)
見回りの回数を減らし、勘と経験をデータで裏づける分野です。
種類 | できること | 始めやすさ |
|---|---|---|
⑦水田センサー | 水位・水温をスマホで確認。水の見回りを減らす | ★★ |
⑧気象センサー | 圃場ごとの気温・湿度・雨量・風を記録。霜や高温の通知 | ★★ |
⑨土壌センサー | 土の水分・地温・肥料濃度を測り、かん水や追肥の判断に使う | ★★ |
⑩衛星・ドローンによる生育診断 | 上空からの画像で生育ムラを把握。追肥や収穫順の判断に使う | ★★ |
⑪病害虫のAI診断アプリ | スマホで撮った写真から病気や害虫の候補を表示 | ★★★ |
⑫生育・収穫予測 | 気温などのデータから出穂期や収穫日を予測。作業と出荷の計画に使う | ★★★ |
山口県の試験研究成果では、水田センサーの利用で水管理の時間が27%減りました。
3. ハウス・施設の制御(離れていても管理する)
種類 | できること | 始めやすさ |
|---|---|---|
⑬ハウス環境モニタリング | 温度・湿度・CO2・日射をスマホで確認。異常時に通知 | ★★ |
⑭環境制御の遠隔化・自動化 | 天窓・側窓・暖房・CO2施用を遠隔操作、または設定値で自動制御 | ★ |
⑮自動かん水・養液管理 | タイマーや日射量、土壌水分に応じて水と肥料を自動で供給 | ★★ |
⑯停電・設備異常の通知 | 停電、暖房機の停止、冷蔵庫の温度上昇をスマホに知らせる | ★★ |
ハウスは「まず測る(⑬)、次に動かす(⑭)」の順がおすすめです。測ってみると、制御を入れるべき場所と時間帯が見えてきます。
4. 作業の自動化・省力化(機械に任せる)
効果が大きい分、投資も大きくなる分野です。
種類 | できること | 始めやすさ |
|---|---|---|
⑰農薬散布ドローン | 農薬や肥料を空から散布。購入のほか、散布の委託もできる | ★(委託なら★★) |
⑱自動操舵システム | いまのトラクターや田植機に後付けして、まっすぐ走る操作を自動化 | ★ |
⑲ロボット農機 | トラクター・田植機・コンバインの無人または協調運転 | ★ |
⑳自動水管理(自動給水栓) | 水田の給水をスマホで遠隔操作、または水位に応じて自動開閉 | ★★ |
㉑可変施肥 | 生育診断の地図に合わせて、場所ごとに肥料の量を自動で変える | ★ |
㉒リモコン・ロボット草刈機 | 畦や法面、果樹園の草刈りを遠隔操作や自動走行で行う | ★ |
㉓収穫ロボット・AI選果 | 収穫作業の自動化、カメラによる大きさ・傷の判別と仕分け | ★ |
自動給水について、先ほどの山口県の資料では水管理の時間が71〜83%減り、圃場への移動回数は約90%減っています。
一方で、農研機構の実証(経営面積75haのキャベツ農家)では、総労働時間が40%減り販売収入が38%増えたものの、導入面積が小さいうちは機械の費用がかさみ、10aあたりの利益は減ったと報告されています。大きな機械は、規模に見合って初めて元が取れます。
5. 見守り・防犯(人がいない時間を守る)
盗難対策だけでなく、ハウスや畜舎の様子を見に行く回数を減らす効果もあります。
種類 | できること | 始めやすさ |
|---|---|---|
㉔防犯・見守りカメラ | 圃場・倉庫・無人直売所の映像をスマホで確認。動きを検知して通知 | ★★ |
㉕鳥獣害対策のIT化 | 罠の作動をスマホに通知、センサーカメラで出没状況を把握 | ★★ |
㉖家畜の見守りセンサー | 牛の発情や分娩の兆候、体調の変化を検知して通知 | ★★ |
6. 販売・お客様とのつながり(売り方を変える)
生産だけでなく、売る場面でもITは使えます。
種類 | できること | 始めやすさ |
|---|---|---|
㉗ネット直販(EC) | 産直サイトへの出品や自前のネットショップで、消費者に直接販売 | ★★★ |
㉘予約・体験受付システム | 収穫体験や観光農園の予約、事前決済、人数管理 | ★★★ |
㉙LINE公式アカウント・SNS | 入荷のお知らせ、注文受付、常連のお客様とのやりとり | ★★★ |
㉚キャッシュレス決済 | 直売所やイベントでのQR・カード決済。無人直売所の料金回収にも | ★★★ |
最近はこのほかに、栽培の疑問をスマホで相談できるAIチャットも登場しています。
30種類の中から、最初の一歩をどう選ぶか
一覧を見ると、あれもこれも気になるかもしれません。選び方はシンプルです。
「いちばん面倒な作業」を1つだけ決める
作業日誌の清書、水の見回り、ハウスの開け閉め、注文の電話対応。毎日やっていて「これさえなければ」と感じる作業を1つ選び、それに効く種類を上の表から探します。
迷ったら★★★から始める
★★★の多くは、合わなければすぐやめられます。特に①営農記録アプリは、記録が残ることで「どの作業に時間がかかっているか」が分かり、次に入れるべきものが見えてきます。
入れる前に、いまの時間を測る
選んだ作業に何分かかっているかを、1〜2週間メモしてください。この数字がないと、入れたあとに効果があったのか判断できません。
一作ぶん続けてから広げる
1週間で判断せず、作付けから収穫まで続けてみます。効果が見えたら、★★、★へと順に広げます。手元に自分の農場の数字があれば、機械や補助金の検討も根拠を持って進められます。
導入前に確認したい3つのこと
圃場で電波が入るか。 センサーやカメラ、遠隔操作の機器は、インターネットにつながることが前提です。岩手県の資料でも、導入時の留意事項として最初に挙げられています。
誰が使うのか。 「気づいた人が入力する」は、誰も入力しないのと同じです。誰が、いつ使うのかを先に決めます。
機能が多すぎないか。 できることが多いほど、覚えることも増えます。最初は、選んだ1つの作業が楽になるかどうかだけで選んでください。
まとめ:全体を知って、小さく始める
農業のITは、スマホのアプリから大型の自動化機械まで幅があります。大切なのは、流行っているものを入れることではなく、自分の現場のいちばん面倒な作業に合うものを選ぶことです。
ノウミーは、農業の現場に特化したITの会社です。「うちの場合は、この30種類のどれから始めればいいのか」という段階のご相談から承っています。どうぞお気軽にお問い合わせください。
出典
- 広島県「ひろしまseedbox 開発技術集」営農支援アプリの導入効果
- 山口県「自動給水システム、水田センサーを利用した水田の水管理の省力化」(2021年)
- 農研機構 スマート農業実証プロジェクト 露地野菜(キャベツ)実証事例
- 岩手県「圃場水管理システム」成果資料(令和3年3月)
.jpg)